アカデミー作品賞受賞作『シェイプ・オブ・ウォーター』感想


お越しいただきありがとうございます。
スカイハイプロダクション髙橋でございます。
つい先日(日本時間3/5)、アカデミー賞の発表があり、私は仕事そっちのけでWOWOWにて生中継を観ておりました。
今回のアカデミー賞は、各所で言われているように、ハーヴェイ・ワインスタインというプロデューサーのセクハラ問題による影響を感じるものでした。
とはいえ、前哨戦であるゴールデングローブ賞授賞式まではダイレクトな批判コメントもあったようですが、アカデミー賞授賞式では、前述のセクハラだけでなく映画業界に蔓延る様々な差別への批判としての『Time’s up』バッジによる主張と、ジミー・キンメルがマット・デイモンを少しイジる(「ジミー・キンメル・ライブ」ネタ)、主演女優賞授賞のフランシス・マクドーマンドの素晴らしいスピーチと、冷静な主張が主でした。
観ている私としては、会場の一体感と、映画業界が変わろうとしているエネルギーを感じる、とても素晴らしい授賞式だったと思います。

さて、今回取り上げる映画は、そのアカデミー賞で作品賞を授賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』だ。
あらすじとかなんやかやはテキトーにググってもらいたい。
そしてネタバレもあるので注意して読んでもらいたい。
YouTube Preview Image
(トレーラーだけは貼っておきますね)

監督はギレルモ・デル・トロ。
(アカデミー監督賞授賞)
ロボットを操って怪獣と戦う映画『パシフィック・リム』の監督といえばうなずく人も多いだろう。

本作を大まかに解説すると、舞台は1962年冷戦下のアメリカ。
宇宙開発にアメリカはソ連と凌ぎを削っている。
開発を進める極秘機関は、南米の奥地で神として崇められている半魚人を発見捕獲し、その超人的な生命体を研究し、宇宙開発に繋げようと研究所に運んでくる。
その研究所の清掃員である主人公のイライザは、運ばれてきた半魚人と心を通わせ、恋に落ち、研究所の警備を任されている軍人から無慈悲に虐待をされる半魚人を癒し、挙句解剖されそうになった半魚人を「アザーズ」たちと救い出す。
という映画である。

主人公のイライザは産まれてすぐに声帯を切られて捨てられ、養護施設で育った発話障害者。

イライザが住むアパートは映画館の上にある部屋で、隣人のジャイルズは数少ない友人でゲイである。
清掃員の同僚ゼルダは喋れないイライザの良き理解者で手話もリーディングだけは出来る黒人である。

これに加え、研究所で働くロシア人博士(止むを得ずスパイをしていたが、祖国から見捨てられる)がイライザの手助けをする。

ここまで言えばわかるだろう。
一見宣伝を見る限りは、半魚人と中年女性のラブロマンスという凡庸な若いカップルの映画デートのラインナップには挙がらなそうな映画なのだが、内容は今アメリカで起こっている事を描いている映画なわけである。

監督自身の授賞式でのスピーチでも、「自分は移民です。」とスピーチを始めている。

イライザと半魚人は、食べ物や音楽(ジャズ!)を通してコミュニケーションをする。
言語は一切使わない、というか使えない。
この辺りにボーダーレスへのメッセージを感じる。

軍人のストリックランドにイライザは手話で「クタバレ」とやるシーンがある。
(ストリックランドは手話を理解できない)
いわゆるそれは、一部のトランプ大統領的白人アメリカ人層のレイシズムへのメッセージだと思う。

余談だが、監督が「僕は『美女と野獣』が大っ嫌いなんだ」と言っている。
外見によって迫害される野獣にヒロインは寄り添い、ラストはキスをして野獣は元の超イメケンに戻りメデタシメデタシという大きな矛盾を抱えた映画。
当然私もその欺瞞に腹が立ったので、監督に共感する。
本作は、半魚人と冴えない中年女性はキスしてもセックスしても外見の変化はない。
(正確にはある。ラストのエラ化描写はグッときた)
真っ当でとても好感が持てる。

こういう映画がハリウッドを中心とした映画業界の権威であるアカデミー賞の作品賞と監督賞を授賞してしまうのもアメリカで、過去不景気が続いた時期に勃興したアメリカンニューシネマの潮流の時のようである。

本作と接戦を繰り広げた『スリー・ビルボード』も白人アメリカ社会の恥部を描いた作品だ。

今、少なくともハリウッドは変わろうとしている。
アメリカはどうなのだろう?
感情の赴くままに政治を進めたら悲しむ人が多くいるのではないだろうか?
トランプ大統領こそ言ってみてはどうだろうか、

「我々は移民です。もともと住んでいた人々から土地を奪った移民です」

と…

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